ホイラー師弟

私、楠野さんは家で同じ物ばっか食べる悪い癖がある。

最近はドライフルーツの入ったグラノーラを毎朝食べている。
ツナ缶とキムチを混ぜたものばっか食べてたときもあるし、
フルーチェに目の色を変えていた時期もあった。
こう並べてなんとなくおわかりかと思うが、共通点はほぼ調理いらずということにある。
注ぐ、混ぜる、食べる。なんかもう、これでいっぱいいっぱいだ。
火を使うなんていう文明的なことは、楠野さんのレシピにはほとんど無い。
キッチンにおいてはほぼ原始人と言ってもいい。

しかし、一回だけ、ほんの少し「調理的な」ものに凝っていた時期があった。
それが【ホイル焼き】だ。

正確には【ホイル蒸し】。
肉でも魚でも野菜でも、たれと一緒にホイルに包んで、フライパンを使って
(当然、お湯を張って)そのまま蒸し焼きにするのだ。
一時期、家で何か食べたいときは毎回これを作ってもさもさ食べていた。

これのいいところは、なんと言っても簡単かつ洗い物が出ない所にある。
魚は鮭をよく使ってた。肉は豚か鳥。市販のギョーザやつみれを使ったことも。
野菜はそれこそ何でも有り。キャベツが好きなのでキャベツが多かった。
たれは、何でもいい。
よく使ってたのは出し入りの味噌で、いわゆるちゃんちゃん焼き風になる。
あとはキムチの素とか、すき焼きのたれとか、トマトソースも使ったっけ。
基本、これをかけてホイル焼きにすると、まあ間違いなくまずくなることが無い。
まずくなりようが無いのだ。だって何もしてないんだもん。
蒸し焼きだから味は逃げないし、栄養価も逃げない。
かぶと虫を入れてみようとか、よっぽどの冒険をしようとしない限り、
ホイル焼きに失敗は無い。

そんな話を、先日、打ち合わせの後に水野にした。
どういうわけだか料理の話になったのだ。
こないだのカレー対決でも証明されたとおり、水野はあれで案外料理上手であり、
それなりに凝ったものも作れるらしい。そんな人間にとってホイル焼きなど、
赤子の手をひねるようなものだ、って若干使い方が違うが、とにかく簡単すぎる。
「ふーん、私も今度やってみようかな」と水野は言っていた。
気を使って話を合わせてるのだと思った。

で、ついさっき、プロペラ犬の件で水野に電話したところ、
「あ、そうそう、今日、ホイル焼きしたよ!」と弾んだ声で言っていた。
「おいしかったよ!」と。
まさか、水野にレシピを伝授する日が来るとは思わなかった。

水野版ホイル焼きは、ムール貝を入れて、オリーブオイル等で味付けしたそうだ。
わー!進化してる!てか何それ!ムール貝!オリーブオイル!
そんなグルメなものをホイルで包んだことはございません!
俺がホイルしたもので一番グルメなものは、真鱈だ。真鱈がギリだ。
悔しい。ホイラー師匠として、一日で弟子に追い越されてしまった。くぅう。